雅楽神韻 序文
高円宮憲仁親王
この本は面白い。実に面白い。
カナダに留学していた時、よく人から日本の伝統音楽や演劇について質問をされた。ところがバッハやモーツァルトについてはカナダ人学生より知っていても、能や歌舞伎や雅楽については私は説明することが出来なかった。ほとんど知らなかったからである。なんと恥ずかしいことだろう、自分の国の芸術なのに。ましてや雅楽は宮内庁楽部がその中心じゃないか‥‥。このことがあって、帰ってからは機会あるごとに能、狂言や歌舞伎、邦楽、そして雅楽を観にいくことを心がけてきた。(中略)
この十五年ほどでけっこう多くの曲を聴き、舞を観たことになるのだが、自分でも呆れるほど一向に理解が進まない。いまだに曲の区別がつかないし、三種類ある「越殿楽」の平調はわかっても、あとの二つはわからない。音楽好きの人間として内心千々に乱れていたところへ、この『雅楽神韻』の草稿が届いた。長年の謎が一気に解けた。専門の楽師でさえも判らないことがたくさんある、というのがどうやら雅楽であるようだ。というわけで、いまはとても安らかな気持ちでいる。(中略)
私が以前から抱いていた疑問にはどの本も答えてはくれなかった。そのわけは多分、私が素人の目で、しかも洋楽を聞き慣れている立場からの問いを発していたからだと思う。「なぜメロディーが同じなのか」「どうして移調すると違う曲になってしまうのか」「なぜ管絃と舞楽とで楽器編成が違うのか」そんな質問に初めて答えてくれるのがこの本である。(中略)
雅楽がもともとやってきた国々にはもはやその跡は残っていない。雅楽・舞楽は遠いアジアの記憶を現代に残す貴重な文化・芸術の記録である。その宝物を今後も守っていくため、そしてそのためのより深い理解を促すために、この本が大きな役割を果たすことを心より期待している。
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